釧路湿原塾公開講座記録2003年(平成15年)

公開講座アーカイブ

3月8日(土) PM6:30 

釧路市観光国際交流センター

釧路湿原塾公開講座

月尾嘉男 塾長 「消滅の悲哀」

6月5日(木) PM6:30 

釧路市生涯学習センター

釧路湿原塾公開講座
月尾嘉男 塾長 「地域が自立する戦略」

釧路湿原塾公開講座講演要旨(平成15年6月5日)

世界の課題

世界が直面している第一の重要な課題は環境問題。まず森林の消滅。1年間に1500万ヘクタールの森林が伐採されていて、このまま推移すると、アフリカは120年、南アメリカで240年、そして世界では400年で森林が消滅してしまう。

2つ目が生物の消滅。1年間に35000種が消滅していて、このままでは1500年ですべての生物がいなくなる。

3つ目が大気温度の上昇。世界では過去100年で0.5度気温が上昇している。このまま推移すると、100年後には平均気温が5.8度も上昇し、それにともない海面が88㌢上昇する。仮に海面が1㍍上昇すると、日本のすべての防波堤をつくりなおす必要があり、その意表は40兆円ともいわれている。

第二の課題は資源不足。特に淡水の不足の不足は深刻で、21世紀は各地で水戦争がおこるかもしれない。

食料不足も課題。1人当たりの総漁獲量は1990年には16.3キログラムで史上最高であったが、それ以後は減少している。また、穀物生産量も1990年に335キログラムで最高で、以後は減少している。さらに捨てられている食物の問題もある。日本では、パーティーで出される食物のうち14%、披露宴では24%も廃棄されている。それらを含めて日本の年間の食糧廃棄は2000万トンにもなる。ちなみに、日本で1年間に生産される食物は1500万トンしかなく、不足分は外国からの輸入である。また、コンビニでは賞味期限切れの食料も捨てられていて、これは年間600万トンといわれる。2000万トンの食糧があれば3800万人を養うことができ、日本はスペインの人口と同じ人数を養えるだけの食糧を捨てていることになる。ちなみに、アメリカでは年間8000万トンの食糧が捨てられていて、これは1億6000万人の食料となる。

資源の枯渇も課題で、石油は50年、石炭200年、天然ガス70年で枯渇すると言われている。このほか、社会問題では難民の増大、災害の増大などが大きな課題で、犯罪問題も深刻。日本では、犯罪が多発しているのに検挙率は低下している。50年前は検挙率70%だったが、昨年は19.8%まで下がっている。

日本の課題

日本の国家が直面している課題を列挙すると、まず、増大しない社会の到来で、人口が来年から減少する。例えば、釧路・根室地域の人口は30年後には、現在の70%程度になる。生産優先社会から生活優先社会に変わりつつあることも課題となる。人生の生きがいについて調査すると、1992年から仕事以外が生きがいという比率が最大になった。集中構造から分散構造への転換も重要になってきた。

物質経済から情報社会への変化とともに、情報産業を発展させることが重要になる。また、開発主義から回復主義への転換も盛んである。標津川は戦後、直線の運河にしたが、以前の蛇行した川に戻す事業に取り組んでいる。アメリカのフロリダ州では、20世紀に干拓してきた湿原を1兆円をかけて復元する事業を開始している。釧路・根室地域が復元事業に関しては進んでいる。このほか、官尊民卑から主権在民へ、標準導入から固有尊重へという転換藻重要になる。

地域の課題

地域の課題の第一は縮小発展がキーワードとなる。釧路・根室地域の人口が25年後には現在の72%になるが、そのなかでの発展政策を検討することが重要になる。

財政問題も大きな問題で、国と地方の借金は2002年度末で700兆円、1人当たり550万円になっている。今後は人口減などで税収の期待できない。小泉総理は9月の総裁選で再選されると、年内に消費税率の増大を提案する可能性がある。8%くらいを目途にしているようだが、それでは焼け石に水。毎年30兆円規模の国債を発行して歳入不足を補っているが、これを止めるためだけでも、消費税を35%にする必要があり、さらに、これまでの借金を返済するには、それ以上の増税が必要になる。

地方分権は権限委譲が終了し、税源移譲へと議論が移行している。現在は徴税の比率は国と地方で60:40であるが、最終支出は国と地方はで40:60で、これを当面、50:50にすることが議論されているが、地方では実際に税を集められないので、ますます財政は苦しくなる。税収が伸びるのは東京と大阪だけといわれている。市町村合併の本題は行政効率を上げ、地域の借金返済を早めることが最大の目的である。

そこで、地方分権は地域自立と言い換えた方がよい。まず、モノの自立として、水源の自給、熱源の自給、食糧の自給がポイント。カネの自立のためには、産業の育成、財源確保が必要。ヒトの自立のためには、地域独自の教育制度を導入して、地域の立案機能を高めることが重要になる。

立案能力の欠如の例としては、「ふるさと創生基金」として各自治体に1億円が政府から与えられたが、地域には立案能力がなく、そのうち何百万円を使ってシンクタンクに使い方を依頼した。その結果、283の自治体で温泉を掘ることになった。これからは立案能力がないと、自治体の経営はできない。教育制度については、釧路で必要とする人を育てなければならないということである。

自立のための方策

地域が自立するための第一の方策は大量流通から地産地消に転換することである。地産地消の利点は、安全新鮮の提供、販売価格の低減、資源浪費の削減、伝統文化の再興、地場産業の復興である。鳥取県では、給食の37%が地場の素材。産地の偽装とかBSEの問題も大量流通が生む課題である。イタリアの地産地消活動のことをスローフードといい、ファーストフードに対比させ、伝統的なチーズやソースを作っている。

第二は仮想経済から地域通貨への転換である。実体経済はモノやサービスの生産に対応した価値を基準にしているが、現在は仮想経済が実体経済の10倍も動いている。これは社会にモノやサービスを提供しないため、社会は豊かにならない。タイが経済危機に陥った原因は、ヘッジファンドなどが一気にバーツを買って価値を高め、その後に急速に売ったために発生したことである。生産した分だけの貨幣しか流通しないようにすれば、この問題は発生しない。これを実践するのが地域貨幣で、世界各地で始まっている。

第三は、情報消費から情報創造への転換である。沖縄では早くからコールセンターの誘致に取り組んできた結果、過去5年間で30のコールセンターが東京や大阪から移転し、4000人の新たな雇用が生まれた。現在、東京には104の番号案内はなく、東京の人が番号を尋ねると3回に1度は沖縄にかかり、オペレーターがコンピューター操作をしながら案内をする。北海道でもそうした政策が必要である。

第四が普遍志向から伝統回帰というである。各地の河川改修では、伝統的な方法が用いられないか研究している。川の流れを制御するのにコンクリート製のテトラポットを使わず、木を使う方式を検討している。伝統的な方式を使用することにより地域の材料が使用でき、小さな地場の企業も参加できるようになる。

第五が町村合併から生命地域への転換である。釧路地域でいえば、釧路川流域の弟子屈町、標茶町、釧路町、釧路市が一つの生命地域であり、それらの行政区域が一体として地域を考えていくことが重要である。四国の四万十川では、雨が降ると川が汚れるという事例があった。上流の養豚場が、雨が降る度に糞尿を流していたためで、行政区域が別々だとこのようなことが発生する。現在、天塩川の流域の13市町は一体となった圏域を提言し、パスポートや新聞を発行して、自然に根ざした地域をつくっている。また、羊蹄山麓では、伏流水を守ろうと山麓の自治体が一体となった取り組みをしており、そういう視点が重要になる。

第六が官公維持から里親維持への転換である。これまで国道は国、道道は道が管理するものとなっている。川も同じで一級河川は国、二級河川は道が維持してきた。しかし、このままでは50年後、全公共事業費が維持費になってしまう可能性がある。そこで、一例として、道具は所管する役所が提供し、清掃などを地域のボランティアが実施するという里親制度が登場してきた。図書館でも、17時以降の運営をボランティアで行っているところもある。

第七が官公依存から主権在民への移行で。お上に依存していてはだめということである。そのためには、参加意識の向上、不要政策の排除、行政費用の低減、自立精神の高揚、分権社会の促進が必要である。例えば、ある三重県の町では、議員から地元へ公園建設の要望があったとき、税負担が町民一人あたり何円かかると説明したところ、それほどの負担ならばいらない、ということになった。

29日目の恐怖と言う言葉がある。例えば、塘路湖のベカンベが毎日倍々の速度で繁殖していき、29日目で湖の半分を埋め尽くしたとする。翌日になれば湖面全体が埋め尽くされるのだが、それに地域住民が気付かず、なんとかなると思っている。国に頼るのではなく、自らが地域を変えることを求められている。

6年前に「地域から変わる日本」という活動を開始し、地域が独自の方向を目指すという方針であったが、今年から「地域から変える日本」に転換し、自分たちの地域を変えることが国を変えることになるという方向に転換した。こういう発想が求められている時期にきている。